ARTCOURT Gallery

Exhibitions

OAP彫刻の小径2021-2022:
林武史+松井紫朗
doodling – ちょうこくかのらくがき

2021.5.11 [tue] - 2022.10 at OAP彫刻の小径(大阪市北区天満橋OAP公開緑地内)

2人の彫刻家、松井紫朗と林武史が、空間と時間に「ラクガキ」をするように自由な発想で対話を重ねることで生み出された作品たち。それらを〈OAP彫刻の小径〉に沿って展開することで、小径の背景を流れる大川、そして、水都大阪の風土、歴史と呼応するように、水にまつわる様々な現象や行為を想起させ、さらには拡張する造形の世界が登場します。

野外彫刻は私たちの日常生活とつながった場所にあります。その魅力のひとつとして、私たちが普段見すごしているような何かに気づかせてくれることが挙げられます。今回のテーマにある「ラクガキ」は、公園の砂場で子どもたちが遊んだ形跡のように、特定の意味に回収されないような原初的で多義的な造形物を意味しています。土や水や植物など、彫刻の専門家でなくても扱うことのできる素材も用いられますし、制作もシンプルな行為であることが意識されています。それは一般に考えられている彫刻からは少し離れたものと思われるかもしれません。しかし、ここには、素材と環境と鑑賞者がかかわることで導かれる、彫刻と呼ぶより他のない空間が生まれてくることになります。また、これらの彫刻は、抽象的な姿をしているとしても、具体的な何かに見立てることもできるはずです。この意味で、「ラクガキ」とは、日常のなかにあるモノや所作を彫刻に変換するための作法といえるかもしれません。こうして生まれる形や空間は、鑑賞者に発見と親しみをもたらすことになります。天候や動植物による周囲の影響を受け容れ、また、行き来する人々の視線や身体、想像力に働きかけるこれらの彫刻を通じて、日常のなかに埋没して見えなくなった、この場所がもっている面白さを再確認していただければと思います。

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【作家紹介】
林武史は様々な石を素材に抽象的な造形を制作し、それらを構成することによって、空間そのもの、あるいは「風景」とも呼べる表現を生み出す彫刻家です。眼前に広がる水田や遠くの山並みを想起させる石彫の集合体、積層する石の彫刻を鑑賞者が踏みしめて歩く作品、展示空間全体に石柱が林立し、その空隙までもが心地よい緊張感で満たされたインスタレーションなど、場所や身体との関係性、あるいは自身の中に蓄えられた体験やイメージを手がかりに、石が持つ本来の「質」との対話を重ねることで、周囲の環境に溶け込みながらも美しくしなやかな存在感を放つ作品を屋内・屋外で数多く展示してきました。また、林は大理石による4畳半の作品の上で茶会を催したり、石以外に陶や瓦、壁土、和紙を素材に用いるなど、日本固有の風土や土地の記憶に着想を得た表現も手がけています。

人間の知覚と空間/時間との関係に深い関心を寄せる松井紫朗は、木、金属、シリコンラバーなど、幅広い素材を用いて、新鮮で意外性に満ちた時空概念を提示してきました。先端がじょうごのように開いた銅管を方々へ伸ばし、壁や距離によって隔てられた空間に声を通わせたり、建築と一体化した巨大なバルーンを膨らませて観客に空間の「内」と「外」を同時に体験させるなど、多種多様な形体、スケールで展開される表現は、観客の視覚的・身体的な経験を通して、内/外、こちら側/向こう側、現在/過去といった領域をゆるやかにつなぎ合わせ、切り離し、反転させることで、私たちが普段当たり前と思っている物事の認識のあり方に揺らぎや葛藤を引き起こし、新たな次元へと押し拡げていきます。近年は宇宙との関係に対象を広げ、JAXAと協働のもと、宇宙飛行士によってガラスの密閉容器に取り込まれた真空の宇宙空間を手に取ることで、地球上で「宇宙」をよりフィジカルに経験するためのワークショップを世界各地で行うなど、分野横断的な試みにも取り組んでいます。

出展作家

林武史、松井紫朗

◆ 展覧会記録リーフレット〈オンライン版〉はこちら
執筆: 藤井匡(東京造形大学教授)|写真: 福永一夫、来田猛
発行: アートコートギャラリー