福本潮子「風のなごり − 1980年代の仕事を中心に」
2026.2.21 [sat] - 4.11 [sat] 11:00-18:00|土曜日17:00まで、日月祝休廊
この度、アートコートギャラリーでは福本潮子による個展を開催いたします。
1970年代後半より藍染による作品制作を始めた福本潮子。藍の伝統・素材への飽くなき探求、独自の技術と世界観が融合し生み出される表現は染色や工芸の枠を超え、常に新鮮な驚きをもたらしてきました。
本展は、半世紀近くにわたり革新的な作品を生み出し続ける作家の活動初期にあたる1980年代に焦点をあてます。藍の表現者としての出発点とも言えるプリーツによる半立体の作品《風のなごり》(1987)を中心に、最初期作《潮騒》(1979)、絞り技法や藍のグラデーションによって自身の宇宙観を表現した《天空》《時空》シリーズ、さらに当時の未発表作品などを交えて構成します。
卓越した感性を藍に託して一枚の布に秘められた奥行きを引き出し、海の深い青からたなびく大気、透き通る空、その向こうに広がる宇宙まで、あらゆる自然を包摂する福本の藍表現の原点を、ぜひご高覧ください。
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[作品解説]
自身の「理想の空間意識」を表現するための「青」を探し求めていた福本潮子は、1970年代中頃に藍と出会い、単なる色彩ではなく、水と空気を介して繊維に浸透し、美しく映える実体としての藍の青に魅せられます。同じ時期、絞りと浸染の技法を用いて制作する中で、絞りの糸を外す前の布の皺や膨らみにインスピレーションを得て、プリーツ状に折り畳み縫って染めた布の糸を部分的に解かずに残すことで、細かな襞をもつ扇形が反転しながら連続するレリーフ状の作品を続けて発表。第1回日本新工芸展、第32回京都工芸美術展(共に1979年)で大賞を受賞するなど、大きな注目を集めました。
今回、約36年ぶりに公開される《風のなごり》は、1987年にローザンヌで開催された第13回国際タピスリービエンナーレに出品され、福本の藍の表現が国際的に認知される契機となった作品です。空気に触れることで発色する藍は、プリーツの山と谷の染まり具合の差で布の襞構造をより際立たせます。《風のなごり》に先立って制作された《さざ波》シリーズ(1985)では、難しいと言われる藍の中間色〜淡色の染めを自在にコントロールできる福本独自の技法 “脱色染め” [*1] によって複雑に染め分けられた藍の濃淡が、布がつくる立体的な空間と結びつき、精緻なイメージ空間が実現されました。そして、70年代後半からおよそ10年をかけて洗練を重ねた一連のプリーツ作品の集大成とも言える《風のなごり》は、ブルーの染め分けによるパターンを活かしつつも、生地の大半を白く染め残すことで僅かな藍を際立たせるという、大胆な発想から生まれました。「藍が美しくきわだてばきわだつほど白の存在感が増す。」と作家自身が述べるように、そこには、布地を単なるニュートラルな支持体ではなく、表現の重要な一部と捉え、布と藍の関係性の中で立体的に表現を成立させていく、現在まで一貫した作家の姿勢が早くも明確に表れています。繊細な輝きを放つトルファン綿 [*2] の白のあわいに現れては消える藍の色彩。双方が織りなす抑揚に満ちたリズムで鑑賞者を包み込む本作について、福本は「作り手の意識を越えて存在から自然と発せられるもの、自分以上の何かを現すことができた。」と振り返ります。
《天空》シリーズ(1983〜)は、1980年代初頭にブータンの寺院で見た円と線のみで描かれた曼荼羅に着想を得て、作家が自身の内に感じる宇宙の摂理をイメージし、滑らかなぼかしが染まる苧麻の手績みの布 [*3] に大きな円、そして青の階調と青海波の紋様を重ね染め抜いた作品群です。その後に続く《時空》シリーズ(1991〜)では、伝統的な紋様である青海波を使うのをやめ、白とせめぎ合うグラデーションに置き換えることで、深い藍色と静謐で緊張感のあるコントラストを生み出しています。さらに、しみ染 [*4] やよろけ加工 [*5] といった独自の技法と布地を2枚重ねることにより、抽象化されたイメージが多層的に揺れ動きます。空間のみならず時間、そして観る者の内なる意識へと浸透してゆく作品群は、その後の福本の作品展開を方向づける軸となりました。
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1. 一度濃い藍色に染めた布を、灰汁を入れて沸騰させた湯に浸け、化学的還元剤のハイドロサルファイトを用いて脱色しながら藍の粒子を還流させて階調を生み出す技法。
2. 中国新疆ウイグル自治区のトルファンで栽培されてきた木綿。繊維が非常に長く絹のような手触りと光沢を持つ。近代化が進む中で綿の収穫・生産も機械化され、1980年代以前と同等の品質のものは入手が困難。
3. 昔から長野県の開田高原では手績みの大麻布の生産が盛んだった。しかし戦後GHQによって大麻の栽培が禁止され、代わりに苧麻で手績の布が作られるようになった。しかし手間のかかる手績の織物は採算が合わず農作物に切り替わり、わずかな期間で生産されなくなった。
4. 乾いた布に染みを付けるようにして染める技法。
5. 緯糸をよろけ状に乱れさす技法。
関連イベント
- 2.21 [sat] 15:00-17:00
レセプション - 3.18 [wed] 18:00-20:00
アーティスト・トーク
福本潮子 × 名和晃平(彫刻家、Sandwich Inc.主宰)
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