ARTCOURT Gallery

Exhibitions

石塚源太「Absence」

2025. 6. 21 [sat] − 7.26 [sat] 11:00−18:00 [土曜日−17:00、日月休廊] *7.25 [金] は天神祭による交通規制のため15:00まで

アートコートギャラリーでは、石塚源太(b.1982)の個展を開催します。

石塚は京都市立芸術大学で漆工を学び、ロンドンのロイヤル・カレッジ・オブ・アートでの交換留学を経て、大学院修了後の2000年代後半より美術家として作品発表を開始。乾漆技法 (*1) による有機的・流線的な抽象造形や、研ぎ出し (*2) で宇宙的な空間を表現した平面作品によって、漆特有の透明な「皮膜」と「つや」から喚起される知覚経験を主題に制作を続けています。
 漆という自然素材のふるまいの中に根源的な美を捉え、工芸と現代美術の領域を切り結びながら新鮮な驚きをもたらす石塚の表現は国内外で高く評価され、2019年に「ロエベ・ファンデーション・クラフト・プライズ 2019」にて大賞を受賞、2024年には京都府文化芸術賞奨励賞を受賞しました。また、京都市京セラ美術館を始め、ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館、大英博物館、ミネアポリス美術館に作品が収蔵されるなど、着実にキャリアを積み重ねています。
 これまで、表面の「つや」によって漆の「皮膜」をいかに表現するかを追求してきた石塚ですが、当廊で約6年ぶりとなる個展では、マットな塗りの光沢と穴の空いた新たな造形シリーズ《Membrane Spot》によって、内部の空洞を露わにし、「不在」を内包する「皮膜」の存在そのものを自身の漆表現の本質として考察します。さらに、現存する乾漆像などの一部分「残欠」に着想を得た半立体の壁掛け作品や、《Taxis Groove》シリーズの新作と合わせて、石塚の新たな挑戦をご紹介します。

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内部の原型(胎)の形自体には特別な意味を与えず、あくまでも漆の表情を引き出す「表面」を生み出すことに力を傾け、光を反射しながら底知れない奥行きを湛える漆の塗面に向き合い続けてきた石塚にとって、皮膜とは「不可視の内面の発露」ではなく、内/外、光/闇、自/他など、異質なものどうしが偶然性を孕みながら互いに浸透し、作用し合う関係そのものだと言えます。
 本展の中心となる《Membrane Spot》は、脱活乾漆技法 (*3) によって制作されています。そこでは、樹液である漆に然るべき形を与えるための主体=原型(胎)を失い、それを覆っていた漆の皮膜自体が自立した存在へと変化し、さらにその膜の一部に穿たれた穴を通して空虚な内部が姿を現します。両義的な意味を生み出してきたつやは、滑らかでマットな質感へと置き換えられ、包み込む対象をなくして皮膜であることさえもやめた名付けがたい存在と、その内側に息づく闇に満たされた不在、双方の分かち難さが際立ちます。
 また一方で、石塚は、椀や箸、調度物などの漆器として東アジアを中心に人々の生活に浸透し、手触りや音、匂いなどともに形作られてきた漆と人間の関係についても関心を寄せており、身体に宿る親密な漆の記憶と自身の表現を結びつける手がかりとして、塗りの行為や器(特に椀)の外/内の構造を喚起させる質感や形の構想を温めてきたとも言います。
 漆の技法と特性を独自の考察力と感性で解体し、二元論や因果関係といった従来の経験則では捉えきれない未知なる可能性を孕んだ表現として再構築するとともに、生きる営みの中に根差した漆の風景を純粋な視覚的経験と交差させる石塚源太の新たな試みをぜひご高覧ください。


1. 土台となる原型(胎)に麻布を貼り重ね、さらに漆、木粉、砥粉を混ぜ合わせたものの塗り重ねと研磨を何層にも施して造形物を制作する技法。
2. 下塗りの工程で複数の色で漆を塗り重ねたり、貝などを埋め込み、砥石などを使って表面を削り模様を作り出す技法。石塚は埋め込む素材としてカッターナイフの刃や釣り針、ワッシャー、縫い針、シャープペンシルの芯などを用いる。
3. 乾漆技法によって制作された造形物の一部に穴を開けて原型(胎)を取り除き、内部を空洞にする技法。

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◆ ステイトメント


Absence

数年前、立体作品を壁面に展開する過程で、壁に合わせ作品をカットした。そのときに内側が露わになり、覗き込んだことで、自分の作品が乾漆技法による「皮膜」によって成り立っているということに気づいた。それまで私は、作品を一つの「塊」として捉えていたが、内側を覗き込むことで、その本質が「皮膜そのもの」にあることを強く認識したのである。

漆は木の樹液を精製したもので、塗る対象がないとそれ自体で形を持つ事はできない。胎(たい)と呼ばれる原型を用意する事でその姿、表情は生まれる。私の作品の原型、つまり胎は伸縮性の布の袋に発泡スチロールの球体やアルミのダクトホースなど作品の構造となるものを入れて作られている。その上から麻布を漆で貼り重ね、下地を施し漆を塗っているのである。壁面作品を作ったときに原型となっていたものを取り除くことで乾漆の皮膜自身が自立して存在するようになった。このことにより、原型という主体を失いながらも、「存在と不在」が共存している状態が生まれた。今回の個展はそのあたりの経験に端を発している。

『般若心経』の「色即是空、空即是色」という教えが示すように、万物は実体を持たず、その空虚さの中に意味が宿る。漆の皮膜は空洞という「不在」を抱えながらも、確かな存在として立ち現れるのである。

石塚源太

関連イベント

  • 6.21 [sat] 14:00-15:30
    対談[清水穣氏(美術評論家・同志社大学教授)x 石塚源太]
    *要予約(Email: info@artcourtgallery.com または Tel: 06-6354-5444)/ 定員20名
  • 6.21 [sat] 15:30-17:00
    レセプション

出展作家

石塚源太